Warning Letterに見るデータの信頼性指摘の傾向

弊社のピンポイントアドバイスで、データの信頼性(Data Integrity)について何度か話題を提供させて頂きましたが、最近の動きを知るために、改めて手に入りやすい公開資料を確認しました。2016年から現在までの米国FDA Warning Letterから、データの信頼性にかかわる指摘内容を抽出したものです。アジア各地に生産・開発拠点をお持ちの企業、そして国内でも改めてコンプライアンスを振り返ってみたい企業の方々に参考になればと思います。

Data Integrityに関わる米国FDAのWarning Letterは、この二年弱でざっと24件あります。この中には、試験室などで査察官への案内を拒んだり、資料提示を遅らせたり、見せなかった7件(うち3件はData Integrityの指摘も重複して受けています)も含みます。国・地域別に見ますと、インド8件、中国10件、日本3件、米国2件、欧州1件です。詳しくは後述しますが、ガイダンスの発行された時期(2016年4月)以降に発行されたWarning Letterには、一定の書式で指摘が記載されるようになっています。そして、ガイダンス発行後一年位で、Data Integrityの指摘は減っているように見受けます。FDAの側から見れば、ガイダンスの発行とWarning Letterで同種の指摘を続けることにより、一定の指導効果があったと考えているのではないでしょうか。Warning Letterには、なかなか臨場感ある状況説明が会社毎に記載されています。事例研究にも使えますので是非ご覧ください。

Data Integrityの指摘は、アジア圏(インド・中国だけで全体の67%)に多いように見えます。これはどうしてでしょうか? アジアに開発・製造サイトをお持ちの企業、あるいはこれから進出しようと考えておられる企業の方々は、お考えになる課題の一つと思えます。FDAの資料からは、企業が「故意にする」ケースと、「してはいけないことを知らない」というケースの両方があると考えているようです。

さて、FDAからは、FDA Data Integrity and Compliance With CGMP Guidance for Industry DRAFT GUIDANCE と題したガイダンスドラフトが2016年4月に出ていますが、このガイダンスに前後して、解説版が下記プレゼン形式で発表されています。

・PDA Manufacturing Science Workshop 2016 P1 Inspecting for Data Integrity:

From Manufacturing Floor to Quality Control Laboratories (2016年3月)

・Compliance Trend (2017年2月)

・Current expectations and guidance, including data integrity and compliance with

CGMP (2016年6月並びに2017年3月)

総じて、三つのポイントで整理し、対策を取ってもらいたいというものです。

  • Comprehensive Evaluation  指摘を受けてからではなく、自社内で見つかった時も、広範囲に、説得力のある調査により全容を解明してもらいたいというもの。
  • Risk Assessment  その内容がどのような影響を与えるのか、市場に出ている製品の有効性・安全性に影響を与えるものか、申請を見直さなければならないものかなど、リスクをきちんと整理し、しかるべき対応を取る必要があるかを見極めること。
  • Remediation and Management Strategy (including corrective action plan) その分析に基づき、適切な製品への対応を取ることと、再発防止のためにどのような対策を取るのか、マネジメントがどのような役割を果たすのかなどを示していく必要があります。いわゆるCAPAの一環になると思いますが、経営に与えるインパクトもかなりのものになると思います。査察だけではなく、米国では内部告発により問題が明らかになることもあると聞きます。自社内だけでなく、パートナー会社で起こった問題も、ビジネスに影響しますので、コンプライアンスや透明性などという言葉を常に意識しておく必要があると思います。

参考までに、データの信頼性は世界共通課題で、PIC/Sからも、詳細な記述があります。 PI 041-1 (Draft 2) GOOD PRACTICES FOR DATA MANAGEMENT AND INTEGRITY IN REGULATED GMP/GDP ENVIRONMENTS 10 August 2016 を参照ください。以前の弊社ピンポイントブログからも検索できます。この種の問題は、古くは1990年頃には社会的問題として取り上げられ米国では記事や本になっていますが、いつになっても人の心は弱いもの、コンプライアンスという言葉がいつも頭を過ぎる様にしておきたいですね。

以上。

 

出典

Current Expectations and Guidance, including Data Integrity and Compliance With CGMP
International Society for Pharmaceutical Engineering Data Integrity Workshop June 5, 2016
https://www.fda.gov/downloads/aboutfda/centersoffices/officeofmedicalproductsandtobacco/cder/ucm518522.pdf

India Pharmaceutical FORUM 2017 – Towards Excellence in Quality Indian Pharmaceutical Alliance Mumbai, India Feb. 24, 2017
https://www.fda.gov/downloads/aboutfda/centersoffices/officeofmedicalproductsandtobacco/cder/ucm549445.pdf

Current expectations and guidance, including data integrity and compliance with CGMP
Center for Drug Evaluation and Research March 30, 2017
Society of Quality Assurance Annual Meeting
https://www.fda.gov/downloads/aboutfda/centersoffices/officeofmedicalproductsandtobacco/cder/ucm561491.pdf

PDA Manufacturing Science Workshop 2016 P1 Inspecting for Data Integrity: From Manufacturing Floor to Quality Control Laboratories
CDER Office of Compliance March 16, 2016 San Antonio, Texas
https://www.fda.gov/downloads/aboutfda/centersoffices/officeofmedicalproductsandtobacco/cder/ucm504306.pdf

 

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