これからの信頼性保証に求められること

医薬品、医療機器業界、今や、国内だけでビジネスを完結させている企業は少ないと思います。どうしても海外の原材料メーカーや海外の開発・製造サイト、海外の販路などがビジネスのループに入り込んできます。企業側の立場として何を強化・育成していけば良いのでしょうか? ちょうど10年くらい前、米国の著名なコンサルタントの講演を聞く機会がありました。あれから10年、今の規制当局が目指す姿と比較しつつ、日本企業、いや日本発グローバル企業が考えておくべきことについて、意見を述べさせて頂きたいと思います。

一つ目は、10年前すでに課題となっていた話です。グローバルに生産が分担(分業)されることが加速しており、ビジネス面からこの流れを止めることはできないが、一方で規制当局側も適切な管理が難しくなってきている。この流れでは、当局(米国FDA)だけで全世界をコントロールする事は難しく、各国の査察官との協調と増員が必要な時代になってきている。特に、インドの原薬製造と中国の製品製造は増え続けるであろうと。当時ヘパリンの問題が話題になっており、中国メーカーとお付き合いするなら、企業側でも源流まで訪問・詳細な調査・監査を行って、全てを確かめておくことが必要とのこと。米国FDAでは、現地にオフィスを作り、管理を強化する対策を取っていったのは有名な話ですね。企業側でも、十分な管理体制を求められることは言うまでもありません。査察時のポイントの一つとして、必ず確認をされるでしょう。 Quality Agreement、品質監査、Technology Transferなど、一層の内容充実と、並行して最新のITツールを使った業務の効率化は、戦略課題の一つになりますね。くしくも、本日24日NHK放送クローズアップ現代で「サイレント・チェンジ」について詳しい解説がありました。見られた方も多いと思います。

二つ目は、世界中の法規制は、少なからず一つのものに統合されていくであろう。例えばICHやPIC/Sの動きをみても、10年もすればグローバルに一つのGMPにまとまるだろう。多分PIC/Sに統合されるであろうとの予測。この点はいかがでしょうか? かなりの部分、この方向に進んでいると体感している方も多いのではないでしょうか。併せて、医薬品・医療機器を問わず、要求事項は,年々高まって来ていると思います。内容により軽重をつけなくては、無限に規制の枠が広がっていくことを理解しながらも、グローバルに国と地域が跨る部分については、やはり文書で規定しなければ、前に進まない感じがします。グローバルなSupply Chain、臨床試験でのEthnicityの課題、医療機器におけるソフトウェアの扱いなど、新しい時代に入ったなという受け取り方をしています。製品の開発には、どの国・地域の法規制を念頭に置いて進めるのが良策でしょうか。

三つ目は、米国FDAの査察結果から見ても、企業のリスクマネジメントが十分ではない。是正内容も伴っていないとの見解があります。企業にリスク管理と改善機能の一層の充実を求めている事は明らかですが、10年前に終わった話ではなく、この指摘は今も続いています。私的見解かもしれませんが、Warning Letterを見ていますと、アジア諸国内の査察での指摘が多いように感じられます。最近この業界以外でも話題になっているデータの信頼性にかかわる案件も、具体的な課題の一つかなと思います。

ここからは私の視点で、あと二点課題追加したいと思います。

四つ目は、安全性情報のグローバル共有化の話です。数年くらい前から各国の当局に収集された安全性情報を共有化しようという提案が現実味を帯びてきました。考えてみれば、時代の流れとしてあるべき話かと思います。理由は二つ、同じ製品がグローバルに発売されるようになり、安全性にかかわる情報は多ければ多いほど、解析精度が増すこと。回収にかかわるような案件がどこかで発生した場合、同じ案件が起こっていないかを即時に調べ、対応が取れること。二番目は、IT技術が進み、世界中の情報を集め、データベース化することが容易になったことがあげられるかと思います。すでに日米欧で動きが出ていることは皆さんもよくご存知かと思います。企業側も、それに備えた社内の仕組みを備えておくことが必要になります。

最後は五つ目になりますが、医薬品と医療機器の法規制の考え方・要求事項がお互いに補完し合うように動いている、ということです。それぞれの製品の性質や、必要な技術の多様さから、双方の法規制の流れが形作られてきた経緯があると思いますが、良いところをお互いに取り込んできているように思います。一例をあげますと、滅菌技術、洗浄技術、Annual ReportやQuality Metrix、Supply Chainのセキュリティ対策などです。Combination productのような製品形態に、新しい法規制が出てくる時代、双方の進んだ面が共有化されてくるものと思われます。私見ですが「医薬品にプロセスを学び、医療機器にシステムを学ぶ」という姿勢がこれからの信頼性保証のあり方の一つと考えています。

 

あとがき

さて、信頼性保証部門は何をするところ?と聞かれたら、どうお答えになるでしょうか。製造販売業を統括するところ、と答えるのも正解かと思いますが、グローバルな視点で見ると、少なくともここまで述べてきた5つの課題に対して、明確な道筋・施策を持っていることかと思います。今回は、“Food for thought”のネタを提供させていただきましたが、お互い切磋琢磨していきたいものです。

 

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